お母さん、お父さん、おじさん、おばさん、おじいちゃん、おばあちゃんへ。私達にとっても「黒人の人達の命は大切」です。

Letters For Black Lives
Letters for Black Lives
7 min readJul 11, 2016

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この手紙は、現在進行中のプロジェクト『Letters for Black Lives (黒人の人達の命のための手紙)』の日本語訳である。『#BlackLivesMatter (黒人の人達の命を大切に)』運動への連帯を表明し、その連帯支援に必要な情報を世界各国の言語に翻訳し提供するために発足したこのプロジェクトは、この運動について周りの人々や家族に理解を求めるため、敬意を表しつつも正直に話し合いたいと望む何百人もの人々によって共同執筆された手紙である。

お母さん、お父さん、おじさん、おばさん、おじいちゃん、おばあちゃんへ

今日は大切な話があります。

皆さんは、黒人の人達と接する機会が少ない日本で生まれ育ったため、心のどこかで彼らを「自分とは縁の無い人達」と思っているかもしれません。でも、黒人の人達は、今の世代の私達が生まれ育ったこの社会においてかけがえのない存在です。彼らは私の友達であり、机を並べて共に学んだクラスメートやチームメート、いつでも頼れるルームメートであり、家族に等しい存在です。だから今、彼らの事を思うと胸が張り裂けそうです。

今年だけでも、既に500名以上の命が警察官の手によって奪われてしまっています。黒人は全人口の13%しか占めていないのにも関わらず、その死亡者のうちの4人に1人が黒人なのです。2016年7月5日にルイジアナ州で、路上でCDを販売していただけの黒人男性のアルトン・スターリングさんが、二人の警察官に射殺されました。そのすぐ翌日にも、ミネソタ州でドライブ中に警察官に止められた黒人男性、フィランド・カスティールさんが、同乗していた婚約者と、彼女の4歳の娘の目の前で射殺されました。このような事件で警察官が処罰を受けることは滅多にありません。

私の大切な仲間や友達は日々、この恐ろしい現実を生きています。

アメリカの黒人の人達が日常茶飯事にこのような危険に晒されていると聞いても、感覚的に他人事だと思い、距離を置いてしまう事もあると思います。警察が「黒人を射殺した」と聞くと、メディアで報道されている犯罪者としてのイメージが浮かび、射殺された側が悪いと思ってしまうこともあると思います。私達日系人やアジア人は一文無しの状態でアメリカに来て、差別も乗り越えながら努力を重ね良い人生を手に入れたのだから、黒人の人達も同じように出来ないわけがない、と思ってしまうかもしれません。

ですが、いま一度立ち止まって、私がこの状況をどう捉えているか、どうか聞いてください。

確かに私達がアジア人であるということで差別を受けることもあります。英語の発音をからかわれたり、アメリカ社会での良きリーダー像から外れているとみなされ、昇進出来ないこともあります。テロリストだ、と後ろ指をさされるアジア人もいます。でも大抵の場合、道を歩いているだけで「凶悪な犯罪者だ」とは誰にも思われないのも事実です。私達の子どもや親は、ただそこにいるというだけで警察官に銃を向けられ、射殺される事はほとんどないと言えます。

ですが、私の黒人の仲間の現実は違います。彼らの先祖の多くはアメリカに奴隷として強制連行され、酷使されました。彼らのコミュニティー、家族、身体は、他の誰かの利益のために何百年にも渡り搾取されてきたのです。奴隷制度が法律上廃止されてからも、選挙権や、土地や家を所有する権利を与えられないなど、人権を損なう侮辱的な扱いは終わりませんでした。黒人の人達は、国や社会からの支援が全く無い状況から生きる尊厳を自力で取り戻し、日々の暮らしを少しずつ積み上げてきたのです。それでもなお、暴力に晒されることを常に危惧しなければならない生活は、今現在も続いています。

黒人の公民権運動の活動家達は、黒人自身の人権だけではなく、私達アジア系の市民のためにも力を尽くして戦ってくれました。それは決して生易しいことではなく、彼らは殴られ、蹴られ、刑務所に閉じ込められ、無残に殺されもしました。今の私達の権利や生活は、彼らの犠牲の上に成り立っていると言っても過言ではないでしょう。私達は今度こそ、この国のマイノリティーの安全や人権確立のために今なお立ち上がり続ける彼らと一緒に声を上げるべきなのです。私達には、ほんの何十年か前に手を差し伸べてくれた彼らと共に、人種間の偏見や憎しみを煽る社会の仕組みを一緒に変えてゆく責任があるのではないでしょうか?

本来なら平和を守るべき警官が、必要なく人を撃つ。このような事件は私達全員と、法に基づく正義と公正に対する侮辱であり、暴力なのです。

だから私は、『Black Lives Matter(黒人の人達の命を大切に)』運動を支持します。そして、黒人の人達に対して偏見的であったり、人として蔑むような言動に対して声を上げます。それによって、時には周りの人達や家族団欒の空気を壊してしまう事もあるかもしれません。ですがそれは決して非難の声ではなく、「この問題をみんなで一緒に考えよう」という心からの呼びかけなのです。何の罪もない大切な人を亡くしたお父さん、お母さん、そして子ども達の身になって、彼らの怒りと悲しみを想像してほしいのです。私も彼らの怒りと悲しみを分かち合っています。もし私が声を上げ、彼らと共にデモなどに参加することがあれば、どうか理解し、支えてください。そして、もし自分も何かをすべきだと感じたら、この手紙を周りの人達に見せて、彼らの気持ちに寄り添ってみてほしい、と伝えてほしいのです。この問題を他人事としない人が増えるという事は、世間の風潮を変えるための大事な一歩なのです。

この世代の者として、家族の皆さんがこの国に長く苦しい思いをしながらたどり着いてくれた事、決していつも親切とは言えないこの地で何十年も生きてくれた事をとても誇りに思います。この差別と偏見に満ちた国で、私が皆さんと同じような苦しい思いをせず、抑圧のない世の中に少しでも近づくように努力し続けてきてくれた事、本当に感謝の気持ちで一杯です。

だからこそ、私は皆さんにこう思ってほしいのです。「抑圧のない世の中を作るという希望は、我が子のためだけにあるものではなく、みんなのためにあるものだ。友達、家族、隣人など全ての人が安全でいられるまで、本当の安全はありえない。私が求めるより良い社会とは、誰もが偏見によって警察に暴行される恐れなどなく、平和に暮らしていける場所なのだ。」この平和な社会こそ、私が望む未来であり、皆さんも一緒に望む未来であってほしいと思います。

愛と希望を込めて、

あなたの子ども達より

Translators

Agnes Oshiro オオシロアグネス

Akané Kominami 小南茜

Damon Robinson デーモン・ロビンソン

Eri Okuma 大熊恵梨

Keiko Andress アンドレス恵子

Lee-Sean Huang リーション・ホアン

Maki Yoshinaga 吉永 麻紀

Marie Kodama 児玉麻理恵

Meg Itoh 伊藤萌紅

Michael Yoshitaka Erlewine アーリーワイン マイケル芳貴

Neo Sora 空音央

Ren Ito 伊藤廉

Saori Kitabatake 北畠さおり

Yuko Tonohira

Yumika Takeshita 竹下由美香

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