家族のみなさんへ

Letters For Black Lives
Letters for Black Lives
7 min readJun 8, 2020

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この手紙は、現在進行中のプロジェクト『Letters for Black Lives(黒人の人たちの命のための手紙) 』の日本語訳です。これは、Black Lives Matter(ブラック・ライヴズ・マター、黒人の命を尊重しろ)運動への連帯を表明し、それぞれのコミュニティーにおける黒人差別について学ぶために必要な資料の作成と翻訳をするために発足しました。そして、Black Lives Matter 運動について周りの人々や家族に理解を求めるため、敬意を表しつつも正直に話し合いたいと望む何百人もの人々によって共同執筆・翻訳されました。

なお、Black Lives Matter(ブラック・ライヴズ・マター)は直訳すれば「黒人の命は大切だ」に近い言葉です。2020年版の日本語訳を準備するにあたって、「黒人の命を尊重しろ」という強い表現を採用した理由は次のとおりです。1)「白人至上主義を根絶し、黒人コミュニティーに対する国と警察などによる暴力に抗議し、黒人差別を撤廃するための自治体レベルのネットワークをつくる」という Black Lives Matter 運動の目的に忠実であること。2)そのような目的を達成することの緊急性や、運動の中ににじみでる様々な感情のニュアンスをより正確に表すこと。

家族のみなさんへ

今日は大切な話があります。

もしかするとみなさんには、黒人の友達や同僚、知り合いがそれほど多くないかもしれません。でも私たちの多くにとって、黒人の人たちは友達であり、隣人であり、家族であり、かけがえのない存在なのです。その人たちが、黒人であるというだけで常に命の危険にさらされていることを思うと、怖くてたまりません。

先日ミネソタ州で、白人の警察官が黒人男性のジョージ・フロイドさんの首を膝で押さえつけ、彼が必死に「息ができない」と何度も訴えているのを無視し、9分近くも圧迫し続け殺害するという事件が起きました。

一緒にいた他2人の警察官はフロイドさんを拘束し、もう一人のアジア系の警察官はそれを止めることなく見張りに立ちました。このような事件はフロイドさんにだけ起こったことではありません。今年だけでも、5月にはインディアナ州でドレイジョン・リードさん、フロリダ州でトニー・マックデードさん、そして3月にはケンタッキー州でブリアナ・テイラーさんが警察官によって殺されました。2月にはジョージア州で元刑事を含む民間人の親子がアマド・オーブリーさんを殺害しました。

メディアにどんなに大々的にとりあげられても、警察官が黒人の人たちの殺害について罪を問われることは圧倒的に少ないです。これまでにどれだけの事件が、記録されることも私たちの目につくことも、公正な裁きを受けることなく闇に葬られ続けてきたのか想像してみてください。

私たちの大切な仲間や友達は日々、この恐ろしい現実を生きているのです。

もしかすると「自分たちもマイノリティーで、何も持っていない状態でアメリカに来たけれど、差別に屈せず良い人生を手に入れたのだから、黒人の人たちも同じように出来るはず」と思ってしまう人もいるかもしれません。

ですが、私たちがこの状況についてどう感じているのか、共有させてください。みんなで一緒に黒人の人たちがおかれているこの現実に目を向け、行動を起こす一歩を踏み出したいという思いをこめて、大切なあなたへこの手紙を書いています。

まず、大抵の場合、私たちは道を歩いているだけで脅威とみなされることはありません。家を出る時、無事に帰って来られるのかと心配することも少ないと思います。そして私たちの多くは「警察に呼び止められたら殺されてしまうかもしれない」という恐怖につきまとわれることなく生活しています。

私たちの周りの黒人の人たちはそうではありません。

アメリカ人の黒人のほとんどの人たちの家系には、数世代さかのぼるだけで、奴隷として売買され北アメリカに強制連行されてきた人たちがいます。それから何百年にもわたって、黒人の人たちの絆や家族や身体は、白人至上主義社会の経済的な基盤を作るための道具として酷使、破壊されてきました。こうして作られた差別的な社会構造のもと、奴隷狩りや大規模農園での奴隷管理が行われました。奴隷制度が廃止された後も、アメリカ政府が黒人の人たちの投票の権利、教育を受ける権利、家やビジネスを所有する権利を法的に否定し続けることにより、その差別的な社会構造は維持されました。そしてそれは、現在も警察や刑務所によって温存され続けています。今日にいたるまで黒人の人たちの命を危機にさらし続ける不平等な「正義」の執行は正義ですらなく、形を変えた「差別」なのです。

黒人の人たちは、信念を貫き通し、あらゆる困難や不条理を生き抜いてきました。また、私たちが今日享受している様々な権利を得るために戦いながら、その間も警察官から暴力をふるわれ、投獄され、殺されてきました。

北アメリカにおいてアジア人は、特に黒人の人たちの対照として、「モデル・マイノリティー(見本となる少数派)」とみなされてきました。このステレオタイプがあることは、有色人種の人同士の争いや分断を引き起こし、反黒人主義の継続につながっています。そして、全ての人にとって公正な社会を築くという共通の目的を見失わさせるのです。そんな中、黒人の活動家たちは不公正な移民法や人種的分離を終わらせることに総力をあげ続けてきました。

これまでに進歩はあったものの、不平等な社会構造は強固に保たれたままです。私たちの政府は、今日この日にいたるまで何百年もの間、黒人の人たちの命を奪い続け、なんの罰も受けずにいるのです。

今、みなさんはメディアで流され続ける強奪や破壊行為の映像に心を痛め、不安な気持ちになっているかもしれません。ですが、「命」はもう戻ってはこないのです。想像してみてください。もしみなさんの愛する人の命が無残に奪われた時、周囲がそのこと以上に「物」が奪われたり壊されたりしていることを気にかけていたら、それがどんなに心ない言動として映るのか。都市のロックダウンが続く中、健康への危険を冒してまで抗議を続けるのはどんな心境なのか。自分たちの祖先が立ち向かっていた国家の暴力に、今なお立ち向かわなければいけないことが、どれほどの疲弊と消耗をもたらすのか。

だから私たちはBlack Lives Matter(ブラック・ライヴズ・マター、黒人の命を尊重しろ)運動を支持します。

この運動を支持するということは、私たちの生活の中で黒人の人たちを蔑むような言動を目の当たりにした時、たとえそれが家族の一員によるものであったとしても、間違っているときちんと指摘するということです。私たちが黙って見ないふりをすることで犠牲になる人たちがいます。だから私たちはこの話をしなくてはいけません。

この国はいつも私たちに優しかったわけではありません。第二次世界大戦中、日系アメリカ人は強制的に収容所に送られました。私たちアジア人が貧困、病気、テロリズムや犯罪をアメリカ社会に持ち込んだと差別を受けたこともあります。みなさんは、私たちがより良い暮らしができるようにと、アメリカでの差別や偏見に耐えてくれました。

そんなみなさんの経験こそが、私たちが団結し黒人の人たちと連帯する必要性をかつてなく示しています。黒人である友人や愛する人たち、隣人たちが安全に暮らせない限りは、私たちの安全もありません。私たちは、私たちの力で、誰もが恐怖におびえることなく暮らせる社会を作り上げることができると信じています。この手紙を読んでくれた一人一人が、ひるむことなく「Black Lives Matter!」と声を上げ、その未来へ一緒に踏み出してくれるよう、心から願っています。

愛と希望をこめて、

あなたの子どもたちより

2020年6月7日

Translated by:

  • Agnes Oshiro オオシロ アグネス
  • Akané Kominami 小南 茜
  • Anri Ono 小野アンリ
  • Ayaka Nakaji 中路 綾夏
  • Chika Kondo 近藤 千嘉
  • Honomi Ijima 井嶋 穂実
  • Kaede Wada 和田 楓
  • Kaori Dina Sato 佐藤 かおり
  • Kione Kochi 赤尾 木織音
  • Maki Yamamoto 山本 真希
  • Mio Yoshigiwa 吉際 美緒
  • Setsuko Yokoyama 横山 説子
  • Tomoka Takahashi 高橋 ともか

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